青い部屋の、赤い白熱灯
#BOOKCOVERCHALLENGE
DAY 2
TOKYO STYLE / 都築響一
不要不急の外出を制限された私たち。
日用品を買いに出るついでに、少しでも日光を浴びようと散歩に精を出す人が多いと思う。
かくいう私もその一人で、駅前に買い物に出るついでに、近所だけれども普段通らない人気のない道を見つけては入り込み、プラプラと散歩している。そしてそこで、古びた愛おしい佇まいの民家や、経年劣化が進み味の滲み出たアパートに出会ってウキウキしている。
隙なく設計されていてシャープで機能的で格好いい建物よりも、お洒落で丁寧に整えられた空間よりも、多少雑に散らかっているような家を見るのがが好きなのだ。ちょっとだけヘンテコで、癖があって、本人のこだわりという名の味があったらなおいい。
これは、人間の好みにも共通するところがある。
散歩中にそんな部屋がありそうな空気を纏った建物に出会うと、いてもたってもいられない。なるべく怪しまれないようにジロジロ見回して、庭に転がってるものや窓辺に置かれているものからその部屋の内装を想像し、どんな風になっているんだろうと思いを巡らせる。
古ぼけた戸建で、建て増しをした跡なんかがあったら、もう、最高!だ。
建て増しだらけの木造の家ほど好物の物件はない。
叶うならば、その辺にあるごく普通の民家に、突然ピンポンして上がり込んで中を見たい!!!!
そんな私の趣味嗜好を満たしてくれたのが、この本である。
素敵でお洒落なインテリアに囲まれているのではなく、賃貸の狭い部屋や、年季の入った古い家でごちゃごちゃと生活している、東京のリアルな生活空間にフォーカスした写真集。出会った時は、ブラボー!!!と叫びたくなる気持ちだった。
ページを捲りながら思い出すのは、中学1年生の頃。
女友達のKちゃんと、お互いの家に泊まりに行くことにして、最近できたばかりの金谷公園で一晩過ごそうと目論んだある夏の夜。そこに、Kちゃんの知り合いというちょっと悪そうな先輩が通りかかり「友達の家に行くから行こうぜ」という感じに誘われた。夜道を友人らと歩くなんてお祭り以外で初めての私は、ドキドキでついていった。
溜まり場であろう家に入り部屋の扉を開けると、そこは壁一面を水色のブルーシートとポリ袋で覆った水色の部屋。赤色の白熱灯が灯り、煙った部屋の中で数人の先輩方と思われる男女が、缶チューハイで酔っ払いながら駄弁っていた。壁には所々赤いマッキーで電話番号や好きな人の名前なんかが落書きされていた。
昭和に建ったであろうごく普通の一軒家の和室が、こんなことになっているなんて、想像もつかなかった!すれ違う人たちの心の中がわからないように、パッと見普通の顔した家の中がこんな秘密基地みたいになっていた、という事実に痺れた。
深夜の外出ですら刺激的なのに、この異空間。
半ファンタジーな気分で公園に戻り、真新しい金谷公園の、トイレの広い棚で眠った。
今や誰の家だったのかは思い出せないけれど、ローティーンの不良だった彼らは大人になり、あの部屋は普通の和室に戻っているだろう。もしくは、子供が引きついで、また自分の色に染めているかもしれない。なぜああいう風な部屋にしたのかの理由はきっと多分なくて、あのときの思いつきと情熱だったんだろうなと思うと、なお愛おしい。
あの部屋の外界からの手がかりは、きっと窓から漏れる赤い光だけだっただろう。散歩中に見る一見普通の家や建物だって、意図せず誰かの秘密基地のようになっているのかと思うと、観察せずにはいられない。古ほけた家だとなお良いのは、誰から誰かへ受け継がれた歴史が積もっている可能性まで想像できるからだ。
いつか、そこらへんの民家にピンポンして突撃してみたいなぁ。ヨネスケうらやましい。
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