ざつおん

30代後半グラフィックデザイナー(女)による他愛もない話。

ライドライドライド - 藤代冥砂

本は大好きでよく買うんだけど、ろくに読まない。

全く読まないというわけではないが、月に数十冊も本を読んで知識を蓄えている人と比べたら、私なんぞがすみません…という気持ちだ。

でも、好きだ、とは言いたい!

あの紙の束の、質量とか佇まいとかデザインとか印刷とか、物質としての存在が好きなのだ。

そうして気に入ったものをちまちま買っていて十数年経ち、いつしかそれらが壁一面の本棚を埋めるようになってしまった。

たとえろくに読んでいなくても、それぞれに気に入ったエピソードがあるわけで(例えば、表紙の印刷が素敵だとか旅先のあの本屋で買ったなとか)、私はそうやって手に入れた本を一切捨てられない。同じような意識の夫と暮らしているので今後の人生はそこそこ本に埋もれていくことになると思う。

 

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コロナ渦で流行っている #BOOKCOVERCALLENGE という企画(?)が回ってきた。

指名された人が7日間好きな本の表紙をSNSにアップしていく、というバトンリレーだ。そのバトンを受け取った時、フフフ、我が家は本ならたくさんあるぞ!とニヤつきながら久々に本棚を掘り返してみたら。

まぁ面白い!!

この企画、自分でも忘れていた本を棚から見つけ出し、ふとそれにまつわるエピソードを思い出したりするためにあるのかな、と思ったら、なんて良い企画なんでしょう(当人比)

 

せっかくなので、インスタグラムのストーリーに淡々と表紙をあげつつ、

こちらで本と自分の関わり方のエピソードを振り返っていきたいと思う。

 

#BOOKCOVERCHALLENGE

DAY 1

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ライドライドライド 藤代冥砂

私の人生を、なかなかに狂わせた一冊。

 

18歳の頃、高校を卒業して東京デザイナー学院に入学するために上京した。

校舎はお茶の水〜水道橋〜神保町の間に複数点在していて、授業ごとに指定された校舎の教室に行く。

神保町、水道橋、をつないで板橋区へ下っていく都営三田線の沿線に住んでいたので、学校帰りに神保町の古本屋街をふらっと回ることもあった。

そんな時手に取ったのがこの本で、パラパラとめくって衝撃を受けたのを覚えている。

刺激的な旅を綴る文章にひきこまれ、それを記録した生々しい写真にドキドキし、書き手の方に惚れてしまう!!!と鼻血が出そうになりながら、わたしは買わなかった。

1380円で刊行されたこの本、当時すでにプレミアがついて5000円以上の価格で売られていたのだ。

18歳の私、金がなかったのである。

 

で、それから数年が経つ。あの本誰の何ていうタイトルだったっけ?とほんわかした記憶ながらもドキドキした感覚だけを覚えているような状態の時、友人から誕生日プレゼントに「もう、家へ帰ろう」という写真集をもらう。

なんとなく文章に覚えがあって著者を検索したら、あ!これだ!!!!と。ライドライドライドに、Amazonで運命の再会を果たす。

すでに社会人。薄給ではあるが、買えないことはない価格。えーい!と、5000円を支払って購入したのであった。

 

しかし、ここで事件が起こる。

当時一緒に暮らしていた社会的モラトリアム期の恋人が、私の本棚からふと手に取ったこの本に感化され、ひとり旅がしたい!と思い立ちタイに旅立っていった。この本を持って。

いいね〜と和やかに見送ったわけだが、帰国してからが穏やかじゃなかった。

「俺は日本じゃねぇ」「日本は狭い」「そうやって仕事しててなんか楽しい?」

……

バックパックの旅でくしゃくしゃに汚した本を「旅の味が出たでしょ?」と悪びれもなく私の前に投げ出し、好きな仕事に就いてペーペーながらも頑張っていた私に、夢見る10代男子かよ!的なドリーミーワード口撃。

この恋愛が破談となるのは、想像に難くない。

それまで喧嘩することも揉めることも全くなく、このまま穏やかに一生一緒に居るんだろうな〜と思っていたのに、まさかの一冊の本が運命を変えてしまったのである。

数年後、「あのボロボロな写真集もういらないでしょ?ちょうだい?」みたいな連絡が来たので、ブチギレてしっかり弁償してもらった。

失礼を重ねられすぎて、未練とか1ミクロンもない。

 

さらに数年が経ち、私はフリーランスになり、その傍らで喫茶スマイルというバーで火曜日のバーテンダーをしていた。

アラサーの我々は、まぁよく酒を飲んだ!友達が友達を連れてきて、同業界の輪が広がって、すごく楽しかった。(朝まで飲んで朝から会社に行くみなさまかっこいいな…と思いながら、私は昼まで寝ていたが)

で、先ほどの「俺は日本じゃねぇ」君のエピソードはすでに酒場の鉄板ネタとして確立していたので、私はバーカウンターでよくその話をしていた。

そしたら、まさかの。

「俺!藤代さんの弟子だった!」

吹いた。

彼も、この本をきっかけに師匠に惚れ、写真家を目指して上京し、ある時ラッキーなタイミングがあり弟子になれた、と。

最近独立したという彼はその日が初来店。

友達の友達の友達(遠いな笑)で、音楽の話でオーナーと意気投合し、店に馴染んで、一人でもフラフラと訪れるようになった。こういう、「約束して会うわけじゃないけどたまに顔合わせたら話す」みたいな距離感の知人が大人になってからできるのは、酒場ならではの楽しみだと思う。

 

それからまた数年。色々とあって(本と関係ないエピソードなので省きます、笑)人生再スタートだな〜と引っ越してきた街の友人コミュニティで、より彼と仲良くなることになる。

 


はい、なんの因果か、今では我が夫です。

はい、最終的に夫との出会いエピソード(ハート)みたいなただの甘い話になってすみません。

ということで、この本は我が家に今、2冊ある。

 

あの時あのタイミングでこの本がなければ違う人生だった!という一冊。

わたしの人生を導いてくれたと言っても過言ではないほどの何かが詰まっているもんで、神棚にでもあげるべきだろうな。