ざつおん

30代後半グラフィックデザイナー(女)による他愛もない話。

蛇穴くんの帽子

ここ最近、お化粧をする機会がぐんと減った。
 
お化粧をしない、というか、身支度に手を抜く、という言い方が正しいかもしれない。
「寝癖を直す」「お洒落をする」「お化粧をする」という、自分を素敵に見せるための行為をひっくるめて何もしない日が増えたのだ。
 
勿論、取引先との打ち合わせや友人と会う予定がある日はきちんとするけれど、フリーランスで仕事をしている今、PCと向き合って作業に終始する誰とも関わらない日に、自分の見え方などどうでもいいや!と思いがちで、自らのテンションを上げるためだけにお化粧をしたりお洒落をする、なんて意識の高い日は滅多にない。
特に冬は、マスクや帽子が季節の基本装備でもあるので、眉毛さえ書けばまぁいいか、という気持ちで日々過ごしている。
 
さて、そんな感じで本日も、ニット帽とマスクだった。
なんの思い入れもないブラウンのニット帽と、新型肺炎で売り切れになる前に運良くストックしておいた使い捨てのマスク。
 
そういえばこの帽子っていつからかぶってるっけ?と、ふと思い起こしたら、高校生の頃だった。わりと鮮やかに記憶が残っているせいか、高校生の頃をまだ最近だと思っているオメデタイ人間なのだけど、実際はなんとびっくり18年前である。めちゃくちゃ気に入っているわけでもないのに、私はこのニット帽を細々と18年かぶり続けてきたのか…。
18年って、人が生まれてから大人になるまでの年月だし、犬猫だったら生まれてから天寿を全うするほどの年月だ。
我慢強く辛抱するという意味の「石の上にも3年」のさらに6倍である。
石どころか、頭の上に、18年も。
 
 
しかもそうだ、思い出した、厳密にはこれは私の帽子ではない!
 
 
私が高校生3年生の頃お付き合いをしていた方は年上の社会人で、とても社交的で活発で面白い人だった。
いつも周りに人が集まっていて、彼が一人で暮らす1Kのアパートにはよく友達が遊びにきた。ワイワイ騒いで、時には泊まってって、そんで忘れて行った所持品をなぜかそのままくれたりした。
高校卒業と言う自由を得た直後、実家で気ままに暮らしていたり、都心の進学先からたまに帰ってくる20代前半の男子たちは、みんな気前が良くて爽やかだった。
 
この帽子の持ち主である蛇穴くんも、その中の一人だった。
蛇穴とかいて「じゃあな」くんである。なかなかの珍苗字だけど、うちの実家の方ではたまに聞く名前だ。
 
蛇穴くんはお洒落で、裏原系ストリート系ファッション最盛期の頃にREVOLVERとかUNDERCOVERとかGOODENOUGHなんかを着ていた。
大きめのトップスとボトムス、そしてこのブラウンのニット帽が似合っていたのを覚えている。
どうして私がこの帽子を所持するに至ったかは忘れてしまったけど、彼の家に忘れて行ったのをそのままくれたのかもしれないし、穏やかで優しい人だったから「いいなー」と言ったりしてたらくれたのかもしれない。
 
蛇穴くん、もうすっかり私のことなんて覚えてないと思うし、
私も顔をはっきりとは思い出せないけど、
なぜか、まだ君の帽子、かぶってるよ!!!
 
 
ところで、「蛇穴」さんを調べてみたら青森県下北地方に数十人と、全国にはちらほらとしか居なかった。
絶滅危惧苗字やんけ。
子孫繁栄してますように。